「すいません。仕事の話じゃないんですけど、是非一度一緒に飲みに行ってください。法務のTさんと一緒に」
もちろん二人のT君とは仕事の接点はあったのですが、唐突に誘われた私もビックリ。
「いいよ。じゃあ調整してよ」
ところが営業のT君が出張続きで日程が折り合わずようやく開催となりました。
実は二人のT君が飲んでいたときに、私の話題になって「一度飲みたいよね」ということになり、若い方の営業T君が私を誘いに来たそうです。
「断られるかと思ってました」
と言うT君でしたが、誘われれば受けて立つのが私の信条。
懇親会の会場に選んだのは私のホームグラウンド天満の源八橋にほど近い同心亭。
「絶対キャノンデールさんの好みの店ですよ」
と止まり木ホワイトラベルのマスターや常連さんたちから推薦されていたお店。
一人で行くわけにもいかず、機会を伺っていましたが、今回の懇親会にうってつけだという私の独断で決定、予約を入れました。
店の前まで焼肉の脂がしみ出しているようです。
予想通りの煤け具合。
畳や座布団のヌルヌル度も文句ないレベル。
「うちの焼肉の匂いで店の前でメシ喰う奴らがおんねん」
といきなりボケをかましてくる名物オヤジ。
メニューの短冊は脂が染みこんで判読不能。
「みんな頼むもん決まってるから、読まれへんでもええんですわ」
と奥さんまで。
我々の席もセットされていました。
まずは生ビールで乾杯。
改めまして、宜しくお願いします!
「最初はタン塩からいきますか?」
と奥さんに勧められるまま注文。
二人前。
見事な生タン塩。
「国産やからな。全然ちゃうで、うちのんは」
とオヤジは厨房から出てきて自慢話。
「いや、ほんとすごいですね。こんなの食べたことないですよ!」
と持ち上げて受け答え。
その方がオヤジもご機嫌になってサービスも良くなるという大阪らしいシステム。
芋焼酎の水割りにチェンジ。
さて、件のハラミ。
「1キロくらい食べるか?」
とオヤジの冗談とも本気ともつかないトーク。
500gで妥結しました。
厨房で塊を切って持ってきます。
そのままコンロへ。
デロリと。
動画で。
全体に焦げ目を付けます。
「こんなええハラミ出すとこないで。ええ店に来たな!」
とどこまでも自画自賛。
「撮影タイムやで!」
というオヤジのキューを受けて、私も動画で。
ハラミのフランベという、焼肉界においてどれほどの意味があるのかわからない調理方法ながらも、妙にテンションが上がる瞬間を激撮!
一旦オヤジが引き上げて、一口サイズに切り分けてから再び持ってきます。
これをもう一回炙って食べろ、という指示。
赤身が軽く焦げ目がつけばOK。
もう私のデジカメもスマホも脂でベタベタです。
当然服も身体もベタベタのはず。
「塩とタレと両方で食うてみ!」
というオヤジの更なる指示。
確かに今まで色んな店でハラミを食べてきましたが、オヤジのうるさい薀蓄もなるほどと思う味。
キムチの盛り合わせを頼みました。
「高い方にしょうか?デラックスで!」
東京の人にはわからないでしょう、このノリは。
「ナムルも特上にしとくわ!高いで」
オヤジは益々舌好調。
そんなんあるわけないやん(笑)
「てっちゃんでも食べますか?」
と奥さん。
「脂の多いところで」
もう好きにして、って感じ。
もうもうと白煙が上がります。
この煙は室内に充満し、我々の衣類に浸透していくのです。
「あぁ、そん位がええねん」
と許可を貰っていただきます。
「もうちょい食べようよ」
ということになりました。
「脂身は苦手なんです」
とう営業T君の希望でロース。
ヤバ過ぎる旨さ。
私好みの店で実に旨い焼肉といかにも大阪らしい名物オヤジのパフォーマンスを満喫。
下手なディナーショーより格段にコストパフォーマンスの高いお笑い焼肉ショーを堪能した後は、私の止まり木へと移動です。
仕上げは南森町のホワイトラベルへ。
改めて3人の初飲み会を祝して乾杯。
名物タマゴサンドは別腹で。
私のサラリーマン人生も第4コーナー。
若い世代の人たちと飲むとつい説教モードになってしまうのはいけないな、と思いながらもそれも老兵の役割と思い、ついつい饒舌に。
会社も仕事も矛盾を抱えて、それでもそれを解決するのは会社ではなく個人の力量と努力以外にありません。
私も30年前にそうやって諸先輩に教わったから。
大阪に転勤しなければ知り合わなかった二人のT君と盃を酌み交わしながら、そんなことを考えました。
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