評判の蕎麦屋は「高かろう。美味かろう」という店が多いのですが、この店は更に「遅かろう」まで加わります。
店主の蕎麦作りにかける情熱は、あまりにも不器用な所作と相まって、味とオペレーションの満足度が驚くほど乖離しています。
それを知ってなお、私はまたこの店を訪れました。
しかも、11時半の開店前に。
何たる迎合ぶり。
この店の蕎麦と、謎の店主に魅せられた自分が腹立たしくさえ思えます。
今日は役所に用事があったので午前半休を取りました。
満を持しての訪問です。
5分前に店の前に着きました。
相変わらずバタバタしているのかのんびりしているのかわからない動きで、店主は私を店内に招じ入れ、暖簾をかけます。
お店を慮って、私は一番奥の席に座ります。
真ん中に座って、後から来るお客さんに迷惑をかけてはいけないからです。
というか、そういう差配が店主にはできないので、私が気を使わなくてはいけません。
メニューを見て
「おやっ」
と思いました。
鴨汁そばと鴨南蛮が金土日限定になっています。
どうやら店主も、あまりにも作るのが遅くてお客さんに迷惑をかけているとわかったのでしょう。
しかし、オペレーションを改善するのではなく、メニューを削減するという驚きの方法でこの問題の解決を図ったようです。
「土日の昼下がりにちょっと摘んで日本酒を飲み、その鴨汁そばや鴨南蛮を手繰るのが良いのかも」
と、またもや店主に迎合している自分が腹立たしくなりました。
私が座った後も、まだ開店準備が整っていないのか、ゆくっりバタバタと厨房の準備。
二組目のお客さんが来てから、思い出したように注文を取りに来ました。
この店では、間違っても自分からオーダーを言ってはいけません。
彼が聞きに来た時以外にオーダーしても聞こえていないからです。
「すいません、お湯を沸かしてなかったので」
と大分立ってからお茶も持ってきてくれました。
香り高いそば茶。
お茶を出してくれた店主を捕まえて
「十割をお願いします」
と言いました。
いいタイミングで声が出た自分に心の中でガッツポーズ。
しかし、その迎合ぶりがまた腹立たしく感じました。
そばつゆ、塩、山葵が出されます。
オーダーを伝えてから14分。
十割そばが出てきました。
前回店内で40分立たされたまま放置されたことに比べれば、座って待って、しかも自分より前に障害が無いとわかっているのですから、心は穏やかです。
昼メシに、しかももりそばに1,200円も使うのは、サラリーマンとしては大変な贅沢。
それでも、「高かろう、美味かろう」の店にありがちな「少なかろう」ではないのが、この店の偉い所。
「高かろう、美味かろう、遅かろう、多かろう」の店なのです。
店主の手打ち、生粉打の十割は風味豊か。
その風味がダイレクトにわかる塩で食べてみました。
続いて山葵を入れたそばつゆで。
キリッとしたつゆに引き立てられ、また違う表情を見せる十割。
しっかり味わって少しずつ食べているとはいえ、「多かろう」を実感します。
そば湯。
私が声をかける前に出てきたのは驚きました。
しっかりと濃厚。
余さず全部頂きます。
「すいません、お会計」
わかっているのに、蕎麦を茹でている店主に声をかけた私が悪かったのです。
全く私に振り向くこともなく、じっと鍋を見つめています。
初めて来たと思われる他のお客さんたちに緊張が走ります。
店主が客を無視している、と思ったのでしょうか。
それとも、無視された私に同情しているのでしょうか。
「今、自分がなすべきことは一つ。次のお客さんのそばを完璧に作ること」
店主はそれ以外のことは全く考えられないし、出来ないのです。
私は、彼の視界に入るように立ち上がり、財布を手に持ってアピールします。
茹で上がったそばをしっかりと冷やし、綺麗に盛り付けて次のお客さんに出しました。
その後、私がお会計をしようとしているのに気がついたようです。
店主に迷惑にならないように、きっかり1,200円払い
「どうもありがとうございました。ごちそうさま」
とにこやかに声をかけ、お盆を下げてテーブルをナプキンで拭き、店を出ました。
どこまでも迎合している自分に苛立ちさえ覚えましたが、きっと土日の昼下がりに来てしまうのでしょう。
そんな店なのです。
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