と、支社屈指の酒癖の悪い営業のO次長からメールが飛び込んできたのはひと月近く前。
「参ったなぁ」
と思いながらも、懇親は重要です。
O次長とは、私が東京に勤務していた頃から20年来の付き合いです。
仕事面ではナイスガイなのですが、とにかく宵っ張りで、酒が入ると
「もう一軒」
と言って、なかなか帰してくれないので、彼と飲むと翌日はグッタリしてしまいます。
更にもう一癖あるのが絡み酒。
以前も私の自宅近くのバーに現れ、シャワーも浴びて寝ようと思っていた私を呼び出し、仕事の説教をするのです。
私も彼の深夜の挑戦を受けて立つのですが、大激論の末に、当然疲労困憊、寝不足に。
ところが彼は翌朝そんなことは全く覚えていなくて
「昨日はどうもお疲れ様でした!」
とニコニコしながら挨拶に来ます。
「また、そんなことになるのかなぁ」
と不安に思いながらもせっかくのお誘いですから、当部のM部長、Y部長にも声をかけました。
もちろん二人共O次長の酒癖を知っているので及び腰。
先方はO次長、日頃仕事で我々と接点が多いM部長、そして昇格したばかりのY部長の総勢6名。
19時に裏なんばのビストロという、中年サラリーマンが6人で飲むには全く似つかわしくない店を指定されました。
O次長と飲むとあらば、備えが肝要。
我々3名はなんば花月横のダイコクドラッグでコンディションを整えます。
「酒場放浪記」でCMをよく見るウコンの力 レバープラスをグイッと飲み干してからお店へ。
いつの間にこんな町に変わっていたのか、と驚くほど変貌していた裏なんば。
今宵のお店はビトレス プリュス 裏なんば。
思った通り、全く我々には似つかわしくないお店です。
既に営業の3人は来ていました。
聞けば、既に一軒偵察して、二杯ほど飲んできたとか。
営業のM部長は早くも昼間とは違うハイテンションになっています。
今日は営業のY部長の昇格祝いが趣旨の一つ。
まずはスパークリング・ワインで祝杯を上げます。
「このスパークリング、飲み干さなくてもいいんですか?」
とM部長。
「以前Kさんの部にいた時は、当然のように飲み干さなきゃいけなかったんです」
のっけから、酒癖の悪さランキングの話に突入です。
オーダーは全てM部長任せ。
ハイテンションの彼は、若い店員を捕まえて、面倒くさい感じの絡み方。
「今、思ったけど、M君って、E先輩に似てるよね、話し方が」
「いやいや、それは無いでしょう」
と彼は言いますが、私はかなり似ていると思いました。
「音楽やかましいよなぁ」
とM君は先ほどの若い店員を捕まえて
「音楽、ここだけ小さくできへん!?」
と出来るわけもないことを頼みます。
こういうのを、大阪弁ではイチャモンと言うのです。
「いえ、スピーカーは全部つながってるんで、それは出来ないんです」
「ほんなら、全体的にちっちゃくしてや」
店員も負けていません。
「ちっちゃくしたら、あっちが聞こえなくなるんですよ。あっちの方は、これでちょうどいい感じなんです」
彼の論理も相当なものです。
ここはミナミの飲み屋。
酔っぱらいの中年オヤジのあしらいも慣れたもの。
若い店員さんの方が一枚上手でした。
M君の昼間とのギャップに私が驚いていると、
「いやいや、こいつはこんなもんなんですよ」
とO次長。
一方、大柄なY君は、にこやかな顔で飄々とした語り口ながら、よく見ると目が笑っていません。
やっぱり類は友を呼ぶのでしょう。
O次長の軍団はいずれ劣らぬ曲者で、予想通り、皆酒癖が悪いようです。
続々と色んな料理が出てきますが、もはや料理名は全くわかりません。
二階の一番奥の一角に押し込められた我々は、頭の上から流れる大きなBGMに負けないように、一段と声を大きくします。
「やっぱりビールだよね」
とスパークリング・ワインの後は生ビールで再度乾杯。
既にO次長は第2コーナーを回って角ハイボール。
ヤングコーンを切るM君。
テーブルの上はそれなりの賑わいです。
アヒージョ。
「これって、随分と疎な感じだよね」
と私。
「確かに妙に隙間がありますよね」
と営業のY君。
パスタが二種類。
なかなか美味しかったのですが、店のコンセプトに全くそぐわない我々には豚に真珠の料理たち。
ロールキャベツ的なもののようですが、これは何だったのか、食べていないのでわからずじまい。
土鍋に入ったブイヤベース的なもの。
会話がエキサイティングなので、料理が疎かになってしまいます。
ふと見ると私の部のY部長は白ワインを飲んでいます。
私も白ワインにしました。
これは二杯。
知らない間に色んな物を頼んでいるM君。
土鍋に入っています。
リゾット的なものでしょうか。
私は赤ワインにチェンジ。
これはこの後3杯飲みました。
「関西支社で僕が一番酒癖が悪いと思てはるでしょうけど、僕なんかよりすごいのいますよ」
とO次長。
彼らが言うナンバーワンは全員一致で、とある部署の男性部長。
その人の名前は私も以前聞いたことがあります。
そこから先も、続々と出てくる「支社の酒癖の悪いランキング」で場は大いに盛り上がります。
とうてい書けない話ばかりですが、聞いている分には実に愉快。
「僕なんか大したことないでしょう?」
とO次長。
「確かに君が一番ではないことはわかったけど、屈指であることには変わりないよ」
関西支社に来て3年半。
ずいぶん人脈も広がりましたが、知らないことはまだまだあるようです。
「ほんなら、ちょっと裏なんばを散歩しながら、次の店に行きましょう」
とO次長の先導のもと、酔っぱらいの中年サラリーマン6人は大声で喋りながらミナミの路地裏を歩きます。
道具屋筋を越えて、黒門市場方向へ。
裏なんばの中心地区へと向かいます。
賑わう夜の裏なんば。
私のホームグラウンド、天満とはまた違った雰囲気です。
天満には風俗が無く、治安はこちらよりはずっといいのですが、逆に猥雑な雰囲気がいかにも大阪らしくて魅力的。
こんな路地裏にまで中国人が来て、スマホで街の風景を撮影しています。
驚くべき探究心。
営業のM部長が
「ここが僕は一番旨いと思うお好み焼き屋です」
と太鼓判を押す福太郎。
「ちょっとここで一軒寄って行きましょう」
とO次長に連れられて入ったのは飲食店が集積する味園ビル。
難波の歓楽街を代表するランドマークビルでしたが、一時その隆盛は衰えました。
しかし近年はテナント料を引き下げて、若い店主が小さな酒場を出店するようになり、サブカルチャーの発信源ともなっているようです。
ズンズンと奥へ入っていくO次長。
私にはどこを歩いているのか、どの店を目指そうとしているのは、さっぱりわかりません。
彼が入ったのはゆとりちゃんという何とも珍妙な名前のバー。
私は黒糖焼酎れんとをロックで。
既に何度目かわからない乾杯。
皆、どんどん酩酊して崩れていくようです。
若いスタッフと若いお客さんのいるお店。
ゆとりちゃんとは、ゆとり教育世代のことなのでしょうか。
そういう意味では、二軒目も我々には場違いな店でしたが、バリアフリーな我々は、ここでも楽しく過ごすことができました。
私の部のM部長と何やら会話していますが、二人共明日になれば完全に忘れているはずです。
黒門市場のアーケードが見えました。
裏なんばもこのあたりまで。
日宝河原町会館という雑居ビル。
何とも怪しい感じです。
ところが、彼が予約したあったという秘密のバーは閉まっていました。
ママが別の店に手伝いに行っているようです。
「電話してね」
と書いてあるのに、わざわざ呼びに行くO次長。
千日前シアターでお手伝いをしていたママと一緒に再び先ほどのビルへ戻ります。
2階までしか無いビルなのにその上にお店があるのはペントハウスだから。
「蛇の道は蛇」とはよく言ったもので、O次長の飲み屋に対する探究心には感服します。
JIGOROとドアに書いてあります。
店名なのでしょうか。
中に入ると巨大なリビングのようなラウンジになっています。
靴を脱いで上がるので、誰かの家にいるような寛いだ気分になります。
またまた乾杯。
私は角ハイボール。
若い彼の話にはインスパイアされることも多く、
「最近同世代とばかり飲んでるから、いけないなぁ」
と反省。
方や営業のO次長、M部長は、何やら楽しそうに盛り上がっています。
やはり酒癖が悪いことが今日も証明されました。
私だけが帰る方向が違うので、お店の前で皆と別れました。
パワフルなO次長と、彼が連れてきた二人の刺客にやられた感じです。
地下鉄に乗る元気も無くぐったりと疲れた私は、堺筋でタクシーを拾って自宅へ。
シャワーを浴びることもなくソファーに倒れこみました。
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