朝市にも近い便利なロケーション。
何より天然温泉が魅力ですが、なかなか予約が取れません。
今回、3ヶ月前に旅行の計画を立てた時、既にこの週はこの日しか空いていなかったので、それを前提にツーリングプランを立てたほど。
源泉掛け流しの湯は、やや茶褐色のしょっぱい泉質。
じんわりと疲れも取れていきます。
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さっぱりとしてから、町に繰り出すことにしました。
奥能登では最大とはいえ、小さな町。
ホテルで貰った飲食店の地図と、ネットの情報などを検索して何軒か当たりを付けました。
実際に店を回って外観をチェックし、最後は自分の直感で決めるのが私の旅先の流儀。
まずはホテルから最も近い、浜通りに面した店に向かいました。
赤ちょうちんが風に揺れています。
山海川料理 なるせ。
脇にも入口がありました。
こちらはガレージになっているようです。
風雨を避けるために、こうした囲いの構造になっているのでしょう。
今日見てきた大沢集落の「間垣」と同じ発想かもしれません。
「まだ一軒しか見ていないけど、かなり好みだな」
と思いながら写真を撮っていると、中から小柄で笑顔の奥さんが顔を出しました。
「あら、いらっしゃい」
そう言われると、もう入るしかありません。
好みのタイプの居酒屋なので、断る理由も見つかりません。
構えは大きく見えましたが、カウンター六席のとても小さな店。
お店の天井には色紙が貼られていました。
「まれ」のスタッフも来たのでしょう。
カウンターには先客が一人。
狭い厨房には、とても明るくよく動きよく喋る奥さんと、黙々と手を動かしているご主人の二人。
まずは生ビールをもらいました。
今にも、暖簾をくぐって吉田類がひょっこり顔を出しそうです。
突出しは煮物。
里芋、高野、茄子、いわし、しし唐。
「いわしは骨まで食べられますから」
と、一見頑固そうなご主人から声がかかりました。
実は優しそうです。
魚や一品から〆モノまで豊富なラインナップに、今宵の組み立てをどうするか悩みます。
黒板には今日のおすすめの魚が書かれています。
ここは、おまかせが良さそうです。
「すいません、オススメを少しずつ盛り合わせていただけますか?」
ご主人にお願いして作ってもらったお刺身の盛り合わせ。
かんぱち、地ダコ、ヒラマサの腹、鯖のこぶ締めです。
ひらまさは、わざわざ腹というところにご主人の拘りを感じました。
「美味しいでしょう。うちは地物しか使わないから」
とご主人。
もう一人の先客は地元のご常連のようですが、旅人然とした私にも親しく話しかけてきます。
こぶ締めは浅めの締め具合がとてもいい塩梅。
ねっとりした食感と脂ののった旨味が抜群。
次のお酒に行く前に、ちょっと金魚でつなぐことにしました。
「唐辛子が浮いちゃうんですよ、ごめんなさい」
と謝る奥さん。
「端っこを切るといいんですよ」
と言って、私は自分で唐辛子の端を指でちぎりました。
「ほらね、ここから水が入るから」
後から来たご常連のお一人様は、
「煮物は何ができる?」
と聞いています。
「今日は、いわしがいいかな」
とご主人。
「じゃあ、それ一匹。この前多かったから」
いわしの煮物を一匹から注文できるとは驚きです。
ご主人は嫌な顔ひとつせずに作り始めます。
作り置きではないのです。
しばらくして出てきたいわしの煮物を見て、納得。
丸々と太った大きないわしだったからです。
私はもずくが気になったので、お願いしました。
シャキシャキとした食感。
ちょっと濃いめの三杯酢も、田舎らしくてこれはこれで良し。
「すごくシャキシャキしてますね!」
「それは、能登もづくって言って、このあたりで採れる岩もずくなんですよ。沖縄のもずく使ってるところが多いけど、私はここのものしか使わないんで」
一見無愛想に見えるご主人は、ネタと料理には拘りがあり、その話になると能弁になります。
奥さんはちょこまかと厨房を動きながら、接客とご主人のサポート。
「ようこそようこそ、どうもどうも」
というのが口癖のようです。
常連さんと話していて
「ほんとけっ?」
っと話す奥さんは、今日昼間にロケ地を巡った「まれ」の登場人物のようです。
実に微笑ましい、昭和の夫唱婦随。
ご予約が入っていたお一人様が現れました。
聞けば、二か月に一度ほど、金沢から定期的に出張で輪島に来る方だそうです。
来れば、必ずルートインに泊り、ここで飲むのだとか。
私の選択が正しかったことが証明されました。
日本酒を飲もうと思ったのですが、地酒(輪島)としか書いていません。
「銘柄は何があるんですか?」
と奥さんに尋ねると
「すぐ近所の酒蔵のなんですよ」
と、私にはよくわからない返事。
横で聞いていた出張の男性が引き取って説明します。
「このあたりの酒蔵は数が少ないし、小さいから、地元で消費する分しか無いんですよ。だから、輪島で地酒といえば、誰でもわかるんです」
奥さんがお酌をしてくれたのは、純米酒千枚田。
清水酒造店と書かれています。
地物に拘るご主人ですから、地酒を置くのは当然のこと。
日本酒は、その土地の産のものが美味しくなるように作られているからです。
「この地酒は美味しいですね」
と言った後、
「あ、すいません。お造りももずくも美味しかったです」
と慌てて言い足した私。
黒板に書かれていたししっぽ焼きというのが、とても気になりました。
「どんな魚なんですか?」
「ほうぼうに似てるけど、エビしか食べないから、身の味がいいですよ」
とご主人。
身を開くと、いい香り。
やはりエビだけ食べているからでしょうか。
お醤油を垂らしていただきます。
これは、淡白だけど旨味があって実に美味。日本酒との相性も抜群。
「頭と肝だけ残しておいてくださいね」
というご主人の指示。
「素揚げにでもするんですか?」
「いえ、お椀にするんですよ」
残した頭と肝をお椀に入れ、そこに熱湯を注ぎます。
ただそれだけの、即席潮汁。
お醤油をひと垂らしして、好みで身を突き崩して食べます。
こんなにシンプルで、素朴で、それでいて美味しい潮汁は初めてです。
「輪島ではこうやって食べるんですよ」
どなたかのお宅にお邪魔して、ご馳走になっているようなアットホームな雰囲気です。
お隣の出張の男性に倣って私も地酒は二本目。
純米酒おれの酒。
これは先ほどの千枚田とは違う蔵元。
日吉酒造店と書かれていますが、やはり輪島。
赤ガレイ一夜干し。
あまりにも何でも美味しい地物と地酒に、ついつい食が進んで頼み過ぎ。
「箸なんて使わないで頭と尻尾持ってガブッといってください。都会の人は上品だから」
と大阪から来た私にご主人は言います。
もうすっかり、このお店にいる皆さんと打ち解けました。
言われるままに食べました。
確かに、こうやって食べると、一段と美味しい。
お隣の金沢からのお客さんが、きのこ鍋を頼みました。
私も気になっていたので、相乗りです。
グツグツと煮えて美味しそう。
日本酒ともバッチリ合いそうです。
「苦いのはオオモンタケですよ」
と教わりました。
ご主人は狩猟や鮎の免許を持っていて、全部地で獲れたものか、自分が採ったものしか使わないというこだわり。
鮎やきのこ、そして、海の幸。
この最果ての輪島で生きていくためには歴史的に必然だった地産地消を、この便利な時代となった今でも、当たり前にこなしているご主人が素晴らしい。
問わず語りの会話から、ご主人は愛知県の出身だと教わりました。
輪島の旅館の手伝いから、平成に入って独立したそうです。
66才だと聞き、そんな感じだろうなとは思っていましたが、実にお元気。
と、もう一度ご主人が鍋を引き取り、きちんと仕立てて、再び出してくれました。
奥さんがお店の玄関まで見送りに来てくれました。
風雪の厳しい奥能登の海沿いらしい、二重ドア。
地元の人はもちろん、旅人も優しく包み込むこの店の魅力は、ネタも料理もさることながら、このご夫婦にありと感じました。
旅先での素晴らしいお店との出会い。
身体が温まったのは、きのこ鍋のせいだけではありませんでした。
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夜総合点★★★☆☆ 3.5
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