それでも野田の地獄谷に足を向けました。
どうしても今日じゃないといけない理由があったからです。
今日は大阪駅で所用を済ませて環状線でアプローチ。
いつもの東西線ルートとは違って南側から地獄谷へ。
時刻は19時過ぎ。
まだ地獄は宵の口で看板の灯りもチラホラ。
今日でなければならない理由は、この店。
串焼 TSU-TAN。
タンをはじめとする牛もつの串焼きを出す店です。
まだ看板は灯っていませんが、中から明かりが漏れています。
私が開店前に一番乗り。
実に人当たりの良い店主は、まだ準備の真っ最中でした。
この町の住民は結束が強く、ご近所付き合いも深いので、知った名前を出すと話が早いのです。
「すいませんね。ちょっと待っててくださいね。パンは届いてるんやけど、作る女の子が来るのが19時半なんで」
月曜日だけこちらのスタッフとして入る女性の得意料理なので、その日だけはタンをパティにしたタンバーガーが食べられる、ということなのです。
それまでは、串を摘まみながら待つことにしましょう。
ようやくサーバーの準備も整ったようです。
生ビールで人心地。
突然店主がバーナーを出したのでびっくりしました。
あぶりレバーは、その名の通りまさにあぶり。
生が出せなくなった今、コンプライアンスとお客のニーズを限りなく近づける努力です。
ゴマ油を付けて、塩を振ります。
このレア加減が堪りません。
ハラミは網焼きで。
大好物。
これは塩とタレの両方でいただきます。
タレはあっさり目。
肉の味が引き立ちます。
お隣の常連さんがたまねぎを頼んだのに相乗りしました。
酎ハイストレートにしました。
どんどんお客さんが入ってきます。
みなさん地獄谷の住民か、ご常連。
私はどんどん奥へと詰めますが、6人で目いっぱい。
女性のご常連の注文に相乗りしてミノ。
ようやく、お待ちかねのタンバーガーを作る月曜日のスタッフの女性が出勤してきました。
私はタンバーガーに備えて、ドリンクをハイボールにしました。
厚みのあるタンバーグをフライパンでじっくり焼きます。
たっぷりのピクルス、ベーコン、チーズと一緒にサンドして出来上がり。
美味しそうです。
大人の晩ご飯。
ご主人の説明によると、タンを一本買いしているので、処理するプロセスで出る端肉を上手く再利用して、タンの色んな部位をミックスしてハンバーグにしているそうです。
試行錯誤の産物だそうですが、様々なタンの食感が楽しめて、とても美味しい。
入口にいる若い美人は、近所のバーMasqueradeのママだそう。
その方にお願いして、ゆるりが開いたかどうか灯りを確かめてもらおうとお願いしたら、わざわざ店の前まで行って、空席まで確認してくれました。
彼女にお礼を告げ、お会計を済ませて店を出ました。
これからもう一軒、やはりどうしても今日行かなければならない店に向かいます。
串焼 TSU-TANから、ほんの数軒隣にある酒縁 ゆるり。
大衆食堂やレトロ喫茶から、全国各地の名居酒屋に至るまで造詣の深いマスターに話を伺いに来たのです。
昨日マスターのフェイスブックにとてつもなく旨そうなセコガニ丼の写真や、居酒屋の写真がアップされていました。
「研修旅行」とマスターが言う定期的なグルメ旅は、今回は鳥取編。
週末にそちら方面にツーリングに行こうかと漠然と考えていた私は
「これしかない!」
と反応しました。
その詳細情報を聞くために、どうしても今日ここに来なければいけなかったというのが、二つ目の理由です。
時節物のひやおろしシリーズは終わって、新酒シリーズに切り替わっています。
福井県勝山の伝心。
先日の北陸ツーリングを思い出します。
刈取りが終わったばかりの新米を使った搾りたて生酒。
爽やかな香りと上品な甘さで、キレ良く流れます。
もちろんアテはマスターの鳥取土産のゲンゲの一夜干し。
富山県の新湊でゲンゲ汁を飲んだことを思い出します。
見た目はグロですが、ヌルヌルのコラーゲンたっぷりで、実に旨いのです。
焼けました。
北陸の新酒と合わないわけがありません。
もちろん頭から尻尾まで全て食べることができます。
次はひやおろしにしてみます。
季節が入れ替わる新旧交代の、旧の方。
福知山の東和酒造の手になるひやおろし特別純米酒福知三萬二千石。
ひと夏を越してよりまろやかに旨味が増した味わい。
そして、マスターにこれに合わせるお勧めを伺ったところ、ニギス一夜干しを勧められました。
その名の通りキスに似ていますが、別の種類。
傷みが早く、刺身や塩焼きは新鮮な物でないと旨くないとされ、都市圏では水揚げ地で既に日干しにした物が良く出回ります。
これはマスターの「研修旅行」のお土産。
はらわたの周りが旨い。
マスターから鳥取のお店の情報はしっかり入手。
後は、お店と宿の予約が取れるかどうかにかかっています。
今日の地獄谷はやけに人が多いようです。
ゆるりを出て地獄谷の更に奥へ。
もう一杯だけ、先ほど串焼 TSU-TANで会った、美人ママのバーを覗いてみようと思ったのです。
細い路地の奥。
ここが彼女のバー。
Masquerade。
地獄谷のお店は、どこもほぼ同じサイズ。
カウンターだけで5、6人も入ればいっぱいです。
町は古いですが、店の入れ替わりはそれなりにあるようです。
TSU-TANもゆるりも、地獄谷ではまだ1年ちょっと。
竹鶴のロックをもらいました。
ゆっくりとスコッチを舐めながら、ママというにはあまりに若い彼女とサシ飲みです。
ドアは開けっ放し。
女一人ですから、身の安全を守るためには公衆の視線が大事ということでしょうか。
今の時期は涼しくて丁度いい。
地獄の事は地獄の住人に聞くのが一番。
彼女からも、この町の色んな情報を仕入れました。
そろそろ22時。
店を出て、地獄の迷路を歩きます。
もう少しで三途の川を渡って、この世に戻ります。
この世という名の、地獄よりも恐い世界へ戻ってきました。
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