まだこの界隈のことがよくわかっていなかった転勤当初、毎朝徒歩通勤でこの店の前を通るので、気になっていました。
そんなある日、残業帰りに暖簾をくぐったのがお付き合いの始まりです。
コの字カウンターだけの店は10人も入れば一杯。
いつも奥の席には、商店街の店主や近隣の企業の社長さんなど、天満・天神の重鎮が陣取って、陽気なマスターと素敵な奥さんを交えて世間話。
50代前半の私など、洟垂れ小僧の若さ。
そんなマスターに転勤のご挨拶に来ました。
「そうかっ!もう4年やもんな。そろそろやと思ててん」
とマスター。
そうそう来る常連でもないのに、よくそんな事を覚えていてくれました。
この店に来ると、必ず頼む焼酎のロック。
芋は黒霧島ですが、このビールジョッキにナミナミと入れてくれます。
後で必ずダメージを受けるので、要注意。
お造りの盛り合わせを頼みました。
「ええとこを、ちょっとずつ入れといたで!」
一人で寿司屋のカウンターでお造りをつまむなんて、私もずいぶんと大人になりました。
赤貝。
中トロ。
冬の名物は茶碗蒸し。
夏は玉子豆腐です。
身体が温まっていくのがわかります。
私の後ろで引き戸が開きました。
振り返ると、随分と久し振りにお会いするT社長。
美尋かここでお会いするのですが、2年くらいはお会いしていないかもしれません。
彼の真似をして、芋のお湯割り。
そんなT社長にも転勤のご報告。
「実家は枚方だったよな?東京の家は千葉だったな」
東京出身のT社長は、万博の時に大阪に来て以来の大阪暮らしですが、ずっと東京弁。
20年も私より人生の先輩が、そんなことまで覚えていてくれるとは、恐縮至極。
「あなきゅう巻いてくれる?玉子も入れて」
「あいよ!タレつける?」
こんな会話ももう出来なくなります。
ゴマ塩頭のマスターは政治、経済から文化、芸能まで時事ネタに明るい方。
会話の受け答えに、知性と楽しさを感じます。
地元の重鎮たちも、そこに惹かれて通うのでしょう。
これを口に入れたら、私もこの店にはお別れを告げなければなりません。
「ごちそうさま。お世話になりました!」
「おう!元気でな。また寄ってや。ありがとう!」
師走ももう半ば。
私がこの町に引っ越してきてから間もなく丸4年です。
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