最後の東京出張に合わせたセッティング。
上司も同席して三人で。
役員がお気に入りという、西麻布の秋田料理能代です。
「そこは実に『地味』なんだよ。でも、それがなんとも言えないんだな」
と役員。
「『滋味』ではなく『地味』なんですか?」
タクシーの車内で、そんな冗談とも本気ともつかない会話をしているうちに西麻布に着きました。
落ち着いた雰囲気のお店は、テーブルが4卓ほどの小さな店。
年配のご夫婦と思しき方が切り盛りをされています。
確かにこれといって特徴のある店ではありませんが、どこかホッとする雰囲気。
何品か出てきた突き出しをつまみながら、ビール、日本酒と進みます。
役員、上司と私はほぼ30年来の付き合い。
お互い若かった頃の思い出話に花が咲きます。
途中で部署が離れたりしましたが、こうして再びご一緒することになり、そしてまた別れていきます。
サラリーマンに出会いと別れは付き物ですが、一期一会を大切にしていれば、長いサラリーマン人生、楽しいことがあるものです。
いくつか、それこそ「地味」で「滋味」な秋田料理をつまんだ後、毛ガニが出てきました。
これは、秋田料理ではありませんが、私の送別ということで、役員が通常のコースに特別に加えてくださったのでしょう。
さっきまで弾んだ会話が減るのは、致し方ないところ。
それがカニ料理の宿命です。
しかし私は、会話を続けます。
ひたすら身を出し、甲羅に溜め、後でごっそりと頂く主義なので、身をほぐしながら話すことができるのです。
秋田料理といえば、誰でも知っているきりたんぽ鍋。
お母さんがコンロの支度をしてくれました。
今から20年ほど前、まだ次男が生まれた位の頃に、横手の「かまくら祭り」にはるばる出かけて、晩ご飯にきりたんぽ鍋を食べたことを思い出しました。
よく、あんな遠くまで小さい子供を連れて行けたものだ、と当時の若かった自分を思い出しました。
焼酎のお湯割りを舐めながら、話は尽きませんが、もうそろそろ店を出ないと新幹線の最終に間に合いません。
この後は〆のうどんだと聞き、後ろ髪を引かれる思いでしたが、お二人に謝辞を述べ、キャリーケースを抱えて店を出ました。
タクシーで品川まで15分。
最終の発車までまだ10分あります。
最低毎月1回は出張でしたので、もう50回以上もこんな慌ただしいことをしていたことになります。
そして、どんなに時間がなくても必ず買っていた茹で卵。
品川駅のNewDaysは一個売りなのが有難い。
のぞみ265号。
何度も乗った新大阪行の最終新幹線。
今日は奮発してグリーン車にしました。
自分へのご褒美です。
濃いめ角ハイボールと茹で卵。
私の帰阪の車内宴会の定番。
しかし、その「帰阪」は、今日が最後です。
そしてこの茹で卵も50個どころかもっと剥いたことになります。
茹で卵を食べた後、ハイボールを飲み切る前に眠りに落ちました。
名古屋駅で私の前に座っていた女性が下りるときに振り向いたら、なんと中部支社時代の先輩でした。
彼女が名古屋で降りるまで、お互い気全くが付かなかったのです。
やはり、一期一会を感じる夜となりました。
列車は折からの寒波の影響で、積雪の関ヶ原で減速運転。
到着は予定より10分近く遅れ、接続列車を急ぐ人はホームを走っています。
時計は、ほぼ0時。
私はタクシー乗り場へ。
自宅のある南森町まで、新御堂筋で10分。
明日から、引越の荷造りという大阪を離れる後ろ向きの作業をしなければなりません。
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