レアウイスキーを飲ませてくれる喫茶店が天五中崎通商店街にあるという情報に基づき、洋酒好きの飲み友達のAちゃんのリクエストで二軒目はその店に行くことにしました。
正月2日に、やはり天五の居酒屋吉田スヰッチの同い年の女主人から仕入れた情報によれば、そのARLAZI (アルラージ)という喫茶店は見事な品揃えの驚くほどレアなウイスキーが一杯250円から飲めるというのです。
「私も店を早仕舞いして通うくらいなんですよ」
と言う彼女の話ぶりから、かなりいい店だと推察しました。
なぜなら、その吉田スヰッチの女主人はかなりの酒好きで、自分の店も相当いい日本酒と焼酎を揃えているからです。
ところが教わった場所にその店は見当たりません。
商店街を通りぬけ、中崎町の駅まで来てしまいました。
吉田スヰッチの女主人に電話して確認しましたが、やはり黒崎町公園の少し西にあると言います。
再びゆっくりと一軒一軒確かめるように天神橋筋に向かって戻ると、全く想像と異なる外観の店がその喫茶店だとわかりました。
高校の文化祭のような珈琲屋という張り紙。
確かにARLAZI (アルラージ)と書いてあります。
テイクアウトコーヒー、焙煎屋、お菓子のお店、と脈絡のないコンセプト。
中に入って更に驚きました。
海の家のようなベニヤ壁の簡易な内装。
インテリアは取り留めもなく雑然としています。
3ヶ月ほど前の開店だそう。
しかし、棚には見事なレアウイスキーのコレクションがびっしり。
亡き父が愛飲していたダルマを始め、昭和なウイスキーたち。
私は猛烈にテンションが上がってきました。
サントリーローヤル。
洋酒好きのAちゃんも大興奮です。
そんな私たちに店長が話しかけてきました。
大西くんという名前のようです。
かなりスローな彼ですが、それは吉田スヰッチの女主人から聞いていたので織り込み済み。
私は父が愛飲していて、私にとっても思い出の味であるサントリーオールド(通称:ダルマ)にしました。
ここはストレートのみ。
ロックや水割りはありません。
チェイサーを横に置いて、じっくりとウイスキーを味わいます。
内外装はさて置き、そこは実に真っ当なお店です。
今となっては見ることのない「ウイスキー特級」の表示。
酒税が大きな収入源であった時代、税率とお酒の品質が奇妙な相関関係を持っていました。
美味しいかどうかというよりも、贅沢品かどうかという尺度だったのでしょう。
もっとも、それは今のビールと発泡酒やリキュール、スピリッツに対する酒税でも同じこと。
Aちゃんは最初からロックオンしていたジャックダニエルのハニー。
ジャックダニエル ブラックに天然ハチミツを加えたリキュール(フレーバード・ウイスキー)。
香りを嗅がせてもらいましたが、確かに甘い匂い。
お会計は先払い。
大西くんがチケットを持って現れました。
「11枚で2,500円なのでお得です」
喫茶店らしくコーヒー券スタイルになっています。
しかもこれはコーヒーもお菓子も共通。
テーブルの上のお菓子も250円券が使えるのです。
スローですが、商売っ気はありそうな青年です。
チケットはこれ。
ますますもって高校の文化祭のようです。
チケットの上に今日の日付とキャノンデールという名前を書きました。
大西くんが早速2枚ちぎって、私のチケットを入口のドアに貼りました。
今日何度目かの乾杯です。
レーズンをおつまみに頼みました。
私たちが大興奮しているうちに、ご近所にお住まいの常連さんが現れました。
Nさんとおっしゃるその女性は、ローソンで買ったお弁当を持ち込んでいます。
「ここは何でも持ち込んでいいんですよ。私はいつもここで晩ご飯食べてるんです」
なんと吉田スヰッチの女主人Mさんのこともご存知。
「このお店、見つからなかったでしょう。結界が張られてるんですよ。ハリー・ポッターの9と3/4番線みたいに」
と言い得て妙な説明。
意気投合してお友達になりました。
「私のチーズもどうぞ」
「いいんですか?すいません」
「その代わり、私、パン祭りの券集めてるから、ローソンで買い物してきてパン祭りの券頂戴ね」
さて、次なる名酒。
Aちゃんはイチローズ・モルト。
埼玉県秩父市にあるベンチャーウイスキーの手による高アルコール濃度のモルトは、海外でも評価の高い新進気鋭の名酒。
私はいまは無きアブサンをチョイス。
ニガヨモギを使ったこの酒精は、アルコール度数が70度前後と高く、安価な労働者向けであったため、多くのアルコール中毒者を出しました。
ニガヨモギの香味成分であるツヨンにより幻覚などの向精神作用が引き起こされるとされ各国で禁止された幻の酒。
密造までされた禁酒時代を経て、その後ツヨンの含有量を減らすことで製造が再開された曰くつきの酒精なのです。
私が大好きな冒険小説家船戸与一の作品にも出てくるので、本物を飲みたいとずっと思っていました。
この商品はアルコール度数50度。
薄く緑色を帯びた液体は、ニガヨモギの薬臭さが鼻を突き、口の中で刺激的な暴れ方をします。
なんとなく自分が小説の主人公になった気分。
これは癖になる味。
先程から使っているコースターも、これまたレア物。
今ならセクハラと言われかねないものですが、これもまた昭和の香り。
更に昭和レトロなウイスキーを物色します。
サントリーゴールド。
今でも現役のトリスエクストラ。
結局トリスエクストラブレンデッドウイスキー2級にしました。
大西くんから写真撮影の許可が下りなかったのでボトルの写真はありません。
壽屋時代のサントリーの2級酒。
これは1,000円。
高いけれど美味しいわけではありません。
いかにも模造であり、混ぜ物であり、風味や味わい深さよりも色や香りに重点を置いたブレンド。
これが珍重された時代があったというノスタルジー。
Aちゃんはニッカピュアモルト。
マッサンで注目が高まっているニッカのかつての特級酒。
ふと見るとこんな張り紙がありました。
結局閉店の23時まで2時間近く遊びました。
今日はいらっしゃいませんでしたが、この素晴らしいコレクションの持ち主でもあるこの店のオーナーにも会って、色々お話を伺ってみたいと思いました。
間違いなく通いそうな予感のお店です。
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ARLAZI (コーヒー専門店 / 中崎町駅、天神橋筋六丁目駅、天満駅)
夜総合点★★★☆☆ 3.5
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