ディープ野田阪神の奥へと分け入ります。
巨大な野田交差点を渡って新橋筋商店街へ。
昭和レトロな狭い商店街を進みます。
この眼鏡屋さんが目印。
この建物と建物のわずかの隙間に身体を滑り込ませます。
人がすれ違うのも難しいほど狭い路地をどんどんと奥へ。
私はAちゃんの後に従います。
迷路のような道を進むと酒場の灯りが見えて来ました。
テンションが上がります。
気になる串かつ屋の看板も。
目指すお店が見えました。
酒縁ゆるり。
地獄谷編と小さく書いてあります。
5人しか座れない小さな店。
日暮里初音小路の麻音酒場を思い出しました。
なかなか渋い芋焼酎のラインナップ。
私は南之方(みなんかた)にしました。
案内してくれたAちゃんは薩摩維新。
どちらも鹿児島県限定販売。
つまみも魅力的です。
「ここはひねぽんが美味しいって聞きました」
とAちゃん。
彼女は参加しているワイン会の友人男性に先日この店に連れて来られ、下町居酒屋が好きな私がきっと気にいるだろうと、更に紹介してくれたのです。
これがそのひねぽん。
「ヒネ」とは「古い」という意味の言葉で、北関東から中国四国にかけて使われてきた言葉、つまり方言です。
「ヒネ鶏」は「古い鶏」、つまり卵を産まなくなった雌鶏のこと。
卵の栄養が肉に回るので味が濃く、栄養分も上がります。
ただし、その分筋肉もしまりますので、地鶏のように歯ごたえがでてきます。
噛めば噛むほど、旨味の出てくる肉になるのです。
ひね鶏を焼いて薄くスライスし、ポン酢で食べる、だからひねぽん。
「明石の方の名物なんですよ」
そんな講釈を淡々としてくれるマスターは、とても大柄で気さくな方。
ちょっとハーフっぽいイケメンで、常連さんから「原さん、原さん」と呼ばれています。
原、という名前なのでしょう。
グリルの上の覗き窓から店内の様子を伺う人が時折います。
5席しか無いので、空いているかどうか確かめているのです。
「あの窓はそのためにあるんですか」
と私。
「あれは、たこ焼きを売ろうと思って開けたんです」
と全く想定外の答。
開けたってことは、自分で?
「この店の内装はマスターが全部自分で作ったんだよ」
とご常連。
「コーナンで材料買ってきて作ってるんです」
とマスター。
改めて店内を見渡せば、手作り感満載です。
問わず語りのお話によれば、マスターは地元の出身。
環状線の高架下で長年居酒屋をやっていたそうですが、1ヶ月前にこちらに移ってきたとか。
「まだリハビリ営業中なんですよ。二階の個室が完成したらグランドオープンなんです」
店の奥は急な階段。
これは上がるのはいいけれど、降りるのは危険。
しかも帰りは酔っているから尚の事。
リハビリ営業というのは、高架下の店を締めてから3、4ヶ月ブランクがあったので、マスターがリハビリ中という意味でした。
原木しいたけ焼きを頼みました。
一人の常連さんはずっといますが、いつの間に二人連れは入れ替わっています。
私が東京から転勤で来たと知ると、東京のどこで飲むのかと聞かれます。
「立石が好きですね。だからこの地獄谷も気に入りました」
と言うと、マスターもご常連も
「立石は私も好きです」
と言うではありませんか。
そこからは立石談義に始まり、宇ち多”のもつ焼きから、東西の豚牛文化論まで共通の下町居酒屋の話題。
「どうして地獄谷っていうんですか?」
「ここは戦後の闇市から青線になって、それからスナック街になったんです。昔は無法地帯で、ぼったくりとか多くて、入ったら二度と出てこれないという意味で地獄谷と付いたらしいですよ。私らも子供の頃は親から『絶対行ったらあかん』と言われてたんですけど、とうとう私も地獄に落ちてしまいました」
と笑います。
「ここは地獄谷でも本通りなんです」
とマスター。
「ほんまかいな。通りに名前なんかあったんか?」
と常連さん。
「新地本通りみたじゃないですか、全然違うけど」
と私。
「いえ、私が勝手に言うてるんです」
そんな掛け合いに私たち二人も自然に絡むことができる空気感が最高です。
このエリアには100軒ほどの店があったそうですが、今は30軒程度の営業だとか。
しかも戦後の不法占拠に始まる複雑な地権関係や賃貸借によって、再開発もままならないといいます。
大阪駅前ビルと同じ状況です。
再開発計画が進む立石同様、こんな昭和の原風景は再開発して欲しくないと私は思ってしまいます。
奄美のラム酒ルリカケスがありました。
徳之島の高岡醸造。
Aちゃんによれば、私の同級生が営む天五の吉田スヰッチにも置いてあったので驚いたというほどのレアもの。
炭酸で割ってもらいました。
能勢酒造の炭酸水レモン味。
これがきっかけで私が東京の下町居酒屋の炭酸水事情を語りだし、また会話が展開します。
これはイケる。
でも40度ですから調子にのっていたら危険です。
お手洗いは二階だというので、用を足すために急な階段を登ります。
確かに木がむき出しのままで、新しいベニアの匂いがします。
DIYは終わっていないようです。
2階がオープンしたら転げ落ちる人が続出しそうです。
入れ替わったご常連もお酒好き。
初めて会ったのに旧知の友のように会話が弾みます。
実に楽しい。
その常連さんから明石の大久保、江井ヶ島の太陽酒造の純米常温熟成古酒太陽を一口お相伴。
古酒らしい黄色い色が特徴的。
「太陽酒造の新酒の試飲会は昔飲み放題で、その日は酒蔵から駅までの間でゴロゴロ人が倒れてるんですよ。近所から苦情が出て、今は二合までになったんです」
と淡々と面白い話をするマスター。
彼の話術もこの店の魅力であることは間違いありません。
キンミヤもありました。
三重県四日市、宮崎本店醸の甲類。
東京で酎ハイと言えばキンミヤ。
こんなところで見かけるとは思いませんでした。
お酒に対するこだわりもなかなかの店。
しかしそれを感じさせない、まさに店名通りの店主の「ゆるり」とした接客が素晴らしいと思いました。
マスターとはフェイスブックで友だちになりました。
間違いなく通う店。
ローテーション入りです。
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酒縁 ゆるり (居酒屋 / 野田阪神駅、野田駅(阪神)、海老江駅)
夜総合点★★★☆☆ 3.3
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