同じく阪急中津駅のガード下にある居酒屋ファースト。
実はこの店は隣にある洋菓子のファーストコンフェクトと同じ経営の店だと後でわかります。
カウンターの上には蓋をしたフライパン。
あの中に突き出しが入っているのです。
「奥のテーブルでもいいですよ」
と我々が三人だとわかって女将さんから声がかかりました。
私よりも一回りくらい上でしょうか。
しかし、私はその申し出を断ってカウンターへ。
「この店は、女将さんの一挙手一投足を観察しながら飲むんですよ。すごく面白いですから。だからカウンターがいいんです」
と私はE先輩、M君に耳打ちします。
テレビはもちろんタイガース。
おしぼりが出てきます。
女将さんが、テレビの下に山積みにしてあった洗濯乾燥済みのタオルを目の前でゆすいで。
業務用のおしぼりではありません。
「ね、いいでょう?」
と私は二人に目配せします。
業務用よりもよっぽど清潔だ、と私は思いますがインパクトは大です。
皆それぞれに飲み物を頼みますが、私はビール。
今時ドブ漬けで冷やしているのです。
そこからビールを引っ張り出すところをE先輩に見せたかったのです。
ここには赤星があることはチェック済み。
「いいでしょう、赤星」
と私。
「赤星か。タイガースやな、ここも!」
とさっきの憩い食堂からトークは延長線にもつれ込んでいます。
「あ、大瓶でしたね。飲めるかなぁ」
と私が言うと、女将さんは
「多かったら私貰いますよ」
とニコニコしながら合いの手を入れて来ます。
そうか、飲みたいんだな。
再び乾杯。
ここは突き出しが充実しています。
ホタルイカがゴロゴロと入った筑前煮風の煮物。
さらにはエリンギの炒め物。
そしてフライパンに中にあったのは牛肉のしぐれ煮風のもの。
「野菜で巻いて食べてくださいね」
と何度も念を押す女将さん。
豪華三点が何も頼まずに出て来ます。
自分の分を取り分けました。
ほたるいかの量も尋常ではありません。
赤星と並べて。
下町居酒屋の美しい光景。
「何か頼もや!」
とE先輩。
「焼きそば行こや、焼きそば!」
と声をあげます。
ところが出てきたのは唐揚げ。
いくら酔っているとはいえ、三人ともオーダーの記憶は焼きそばで一致しています。
一同キョトンとして顔を見合わせます。
「女将さん、これ頼んでないよ」
と私。
陽気な女将さんの顔が曇ります。
「あ、いいですよ。食べます、食べます」
「焼きそば作りましょか?」
「いや、食べるけど後で頼むから今はいいですよ」
お母さんに元気になってもらうために私の赤星を注ぎます。
「かんぱ~い!」
お母さんに笑顔が戻ります。
思いもかけず食べることになった唐揚げですが、相当旨いです。
「これ、ええやん、なあ、キャノンデール」
「これむっちゃ旨いなぁ」
とE先輩、M君も絶賛。
もちろん私も激しく同意します。
我々が入店してから少しして現れたもう一人の従業員。
「うちのマドンナにも赤星あげたって」
と女将のリクエスト。
「いやぁ、マドンナて」
と言いながら満更でもない、私と同世代に女性に赤星を注ぎます。
いつの間にか、お一人様の常連客でカウンターは一杯になってきました。
ここで、テレビを見ながら女将たちとトークを楽しみじゃれ合う、そんなガールズバーなのです。
正確にはオールドガールズバー、というべきでしょうか。
「停車場らしい人生模様だね。ここは『人生の交差点』だよ」
と私は隣に座っているM君に話しかけます。
私はハイボールにチェンジ。
5リットルペットボトルからブラックニッカをグラスに注ぎ、そこへウィルキンソンの炭酸を。
「ウィルキンソンはいいですよね、強炭酸で」
と私が言うと、E先輩は
「そやねん、 やっぱ炭酸はウィルキンソンやで」
と確信に満ちた断定的発言。
「どうしてこの店の名前はファーストなんですか?」
前回来た時から気になっていた質問を女将にぶつけました。
「居酒屋らしくないですよね」
「私は隣のケーキ屋なんですよ。先代のおじさんからこの店を40年前に引き継いだんですけど、名前をどうしたらいいか思いつかなくて、そのままファーストにしたんです」
居酒屋らしからぬ奇妙な名前の由来は、実は随分安直な、でもわかりやすい逸話でした。
「そうなんですね」
と私が納得していると、横からE先輩が
「ほんならケーキ屋が居酒屋を買収したっちゅうことやな!M&Aやで、M&A」
再びE先輩のテンションが上がってきました。
「ケーキは何が旨いん?ショートケーキとかあんの?」
「なんでも美味しいですよ。ショートケーキもありますよ」
そんなE先輩と女将の会話を聞いていると、笑いを堪えるのが大変。
色々と質問を浴びせる我々に、女将は
「お客さんら、調査の人?」
と聞いてきます。
これには吹き出しそうになりました。
「調査って、何調査するんですか?」
と私。
「私もわからんけど、なんか調べてはるんかな、と思て」
「いえ、ただの好奇心ですよ」
「そうですか。そろそろ、焼きそば作りましょか?」
女将は焼きそばが気になって仕方無いようです。
出てきた焼きそばは先ほどの憩い食堂の夜料金より50円安い550円。
到底一人では食べられない量です。
E先輩のボルテージは上がる一方。
「次はショットバー行こうや、ショットバー。この辺はライブハウスもあるし、絶対あるで」
「先輩、僕はそこのCAVEっていう謎のバーに行きたいんですよ。絶対笑えると思うんです」
「なあ、キャノンデール、安直に近場で済まそて思てへんやろな」
「違いますよ、この駅のガード下で3軒ハシゴする、というのが面白いじゃないですか」
結局、アルコール摂取量をコントロール中のM君の酒量を考え、本日はお開きにすることを提案しました。
E先輩をなだめるために
「先輩、今日はお開きにして、次回は先輩の持ちネタの花園町でもつ焼き行きましょうよ」
と水を向けました。
「おお、そやな。そないしょ。今日はこの辺にしとこか」
お会計を女将に頼むと、なんと2,000円でお釣りがきました。
焼きそばはきっと勘定に付けなかったのでしょう。
改札の階段の下にある謎の店CAVE。
店名から察するに、洞窟風呂のようになっているのではないかと興味津々です。
「ちょっとおしゃれな西洋居酒屋」という謳い文句に猛烈に後ろ髪を引かれましたが、これはまた次回。
阪急電車の三路線が走りながらも、ひっそりと隠花植物のように咲く阪急中津駅。
さきほどの店から30秒もせずに改札口です。
「日本一狭いホーム」と異名を取るこの駅は、酔っ払って電車待ちをするには余りにもデンジャラス。
黄色い線の内側が黄色い線の外側よりも狭いのです。
「先輩、ホームから落ちないで下さいよ!」
と宝塚線に乗る先輩と改札口で別れ、M君と私は神戸線のホームへ。
猛烈な勢いで二軒ハシゴして私の神経は昂ぶっています。
カームダウンの為にいつもの止まり木に立ち寄りました。
南森町のバーホワイトラベル。
カウンターはスタッフのKさんと私だけ。
他のご常連さんのお土産というマルセイバターサンドとちんすこうのお相伴にあずかりました。
もちろんいつものタマゴサンドも。
今日は嬉しいハム入りトースト。
軽く一杯飲んで帰るつもりでしたが、更にテンションが高くなって、結局深くなりました。
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