調べてみれば、2020年7月以来1年以上間が開いてしまいました。
コロナ禍のせいで、出社も外食も激減したせいです。
「ヘッケルン」のマスターが元気にしているか（元気に決まっているでしょうが）様子を伺いがてら虎ノ門に遠征です。
ドアには「コロナに負けるな」の看板とジャンボプリンの可愛いイラストが貼られています。
前回訪問した時にも増して、店の外にまでマスターのパワーが伝わってきます。
11時というアイドルタイム。
しかも虎ノ門エリアはまだ昼間人口が少ないとあって、先客は一人だけです。
なぜかマスターは不在ですが、ホール係の女性が
「すぐ帰ってきますから」
と言います。
何年か前にも見たデジャブ。
カウンターの端に腰を落ち着けて、ぼんやりとメニューを眺めていると、マスターが帰ってきました。
私は昨日から決めていたオーダーを口にします。
「タマゴサンドとジャンボプリンセットをホットでお願いします」
「またタマゴサンドか。今日はよく出るな、タマゴが。タマゴが足りなくなっちゃうな」
と外にまで聞こえそうなよく通る声で独り言をつぶやきながら、手際よく茹で卵を剥いていきます。
「また」なのかどうなのかは、マスターしかわからないのですが。
この店は注文を受けてから茹で卵を剥き、タマゴサラダを作り、ロング食パンからパンをスライスします。
実に手際よくタマゴサラダをサンドして、見事な包丁捌きでパンの耳を落とします。
さすがの職人技。
目の前にタマゴサンドが運ばれてきました。
袋から出して切ったばかりの食パンはしっとり。
中のタマゴサラダは、ついさっき殻を剥かれてマヨネーズと和えられたばかりのフレッシュなもの。
ジャストタイミングでサイフォンコーヒーも出てきました。
全てが熟練の技。
私のブランチが整いました。
タマゴサンドをつまめば、繊細でふっくらと柔らかいパンの中に、ずっしりと重いタマゴサラダ。
早く口に運ばないと、こぼれてしまいそうです。
たまご好きの私は、出来立てのタマゴサンドをゆっくりと、ひとつひとつ噛みしめて味わいながら頂きます。
私よりも少し後に来た老夫婦が、やはりタマゴサンドを頼みました。
「またタマゴサンドか。今日はよく出るな、タマゴが。タマゴが足りなくなっちゃうな」
これまたデジャブのようですが、そうではありません。
確かにさっき聞いたセリフです。
そして、今回は「よく出る」という言葉に説得力がありました。
私がタマゴサンドを食べ終わったのを横目で見たマスターは、流れるような手つきと軽快なステップで、狭いカウンターを舞いながら、一瞬にしてジャンボプリンを冷蔵庫から取り出し、気が付けばもう器の上に綺麗にひっくり返していました。
「神技」とは、こういうことを言うのでしょう。
目の前にはジャンボプリン。
私の喉は「ゴクリ」と鳴ったはずです。
今日も、このジャンボプリンを食べる工程を、しっかりと記録に留めなければなりません。
まずは、スプーンを入れ、カラメルが流出する動画から。
もちろんスプーンにのったプリンのリフト画像も欠かせません。
そして、美しい断面も。
食べなければ見ることができない、ミッシリとした内部です。
マスター秘伝のカラメル。
苦みと甘みが高次元で調和した素晴らしいレシピと言えるでしょう。
これを掬ってはプリンの上からかけるという「追いカラメル」の技。
私もマスターに負けず、このプリンとしっかり向き合います。
当たり前ですが、プリンは食べ進むにつれて減っていきます。
いかにその美しさを損なうことなく食べきるか、がマスターに対する礼儀というもの。
もちろんカラメルを残すなど、もってのほか。
「完食完飲」です。
ラーメン以外では、あまり使わないワードですが。
マスターは老夫婦にタマゴサンドの自慢話をしています。
「うちはパンも風に当てないし、マヨネーズも卵も冷蔵庫に入れないから、サンドイッチはあったかいんだよ。50年もサイフォンでコーヒー淹れて、タマゴサンドとプリン作ってる喫茶店は、まず無いよ」「絶対にない」と言わないところが、なんとも可愛いマスターです。
いつも世間話を誰彼となくするマスターですが、今日はホール係の女性が奥さんでは無いことを初めて知りました。
それは、お二人の会話の中身から。
大声でプライベートなことを話すので、耳に入ってきてしまうのです。
過去のブログで「奥さん」と表記していたことはお詫びして訂正しなければなりません。
コロナをものともせず、見事に乗り切ったマスター。
開店50周年は今年の8月だったそうですが、吉永小百合の色紙が
「50周年おめでとうございます」
という新しいものに掛け変わっていました。
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