以前なら4、5軒は回れた私ですが、ここ数年でずいぶんと弱くなったようです。
特に量が食べられなくなったので、お店をハシゴしても旨いツマミが食べられません。
立石の交番の脇道から裏に入ります。
この一帯はかつて赤線だったと言われいるエリア。
正確な記録は残っていませんが、その事実を記述した文献もあるそうです。
しかし、戦後70年。
もう記録も記憶も風化するには十分な年月が経ちました。
人がすれ違うのもやっとのそんな路地裏に、以前よく顔を出した店があります。
とっちゃんぼうや。
なんとも人を食った店名ですが、この店は中が面白い。
どれだけ中が面白いかは、店の外にあるのぞきドアを開ければ想像がつくでしょう。
しかし今日はここで戯れるほどの時間と胃袋の余裕がありません。
一年ぶりの立石パトロールの〆は、もちろんこの地で最愛の店蘭州。
21時でしたが、若い男女で満席。
ずいぶんと客層が変わったようです。
一席だけ辛うじて空いていたので、奥さんに勧められてそこへ。
「どうもお久しぶりです」
「まだ大阪なんですか?」
と奥さん。
「そうなんですよ」
まずは紹興酒と烏龍茶玉子をもらいます。
懐かしい。
庶民的な中華料理です。
別名恐竜玉子とも言われるこの店の名物。
茹で卵を醤油や塩、八角などで煮たもの。
煮る前に卵の殻にヒビを入れて味を滲みやすくするのですが、それが出来上がったときに面白い模様になります。
たまご好きの私も、普段はなかなか食べられないので、ここに来ると必ず頼みます。
水餃子を頼みます。
今日は焼餃子まで頼むと、〆のラーメンが入りそうにありませんから、これ一本勝負。
皮を作るところから奥さんの手仕事。
旨さの秘訣はここにあります。
今日は一皿しか胃袋の余裕がありません。
シンプルにストレートでも良かったのですが、やはり香菜をのせてもらいました。
もちろん香醋で。
紹興酒はお代わり。
今日は飲み過ぎです。
奥さんの作ったもっちりした皮は、ご主人の絶妙な茹で加減で比類なき水餃子へと昇華。
旨くて涙が出そうです。
1年ぶりのこの味。
中の餡はジューシー。
肉は多めで、脂のバランスも良い。
「老龍口ください」
「だいじょうぶ?ずいぶん飲んでるよ」
心配しくてくれるのは有り難いけれど、最愛の店に1年ぶりに来た私には、私なりの通過儀礼があるのです。
確かに飲み過ぎだとは思いましたが、ここに来てこれを飲まない訳にはいきません。
中国瀋陽の白酒は高粱から作られた蒸留酒も。
寒い地方で飲まれる酒だけあって、高いアルコール度数で身体を中から温める作用があります。
これは42度。
ほのかな薬臭さは、同じく寒い地域で飲まれるウオッカとは異なります。
身体も温まりますが、酔っ払うことは必定。
〆はもちろんラーメン。
季節限定ニンニクの葉ラーメンというのは初めて見ました。
これにしてみましょう。
香菜ものせてもらいました。
ラーメンを食べながらの老龍口というまさかの展開。
これは旨そうです。
にんにくの葉と香菜の区別がつきませんが、身体には良さそうです。
いつしかカウンターのお客さんも引けて、ずいぶんと静かになりました。
「うちはもともとはラーメン屋だったんですよ。それが餃子が人気が出て、いつの間にかみんな餃子を食べるようになって、ラーメンを食べなくなったんです」
「そういえば、ずいぶんと若いお客さんも増えましたね。今日はびっくりしました」
「みんないろいろインターネットとか見るんでしょうね。最近は地元のお客さんも、混んでるからと遠慮して来なくなって」
と奥さんは寂しそう。
私も今までこのお店のことは随分ブログで賞讃してきましたが、それは良いことなのだろうか、と忸怩たる思い。
確かにここのラーメンは麺もスープもハイレベル。
私はこの店に来たら必ずラーメンを食べたいので、今日もその分だけは胃袋を開けておこうとコントロールしてきたのです。
ハードリカーをストレートで飲みながら、旨いスープを啜ります。
〆ているのか仕上げているのかわからなくなってきました。
たっぷりのにんにくの葉と香菜と一緒に。
すっかり満腹。
そして酩酊しました。
お会計は2,460円。
奥さんに
「また来ます。どうもごちそうさま」
と謝辞を述べ、ふらつく足で目と鼻の先の京成立石駅へ。
コインロッカーに預けたキャリーケースを取り出して改札口へ向かいます。
まだ電車はある時間。
ですが、この後見事に乗り過ごし、帰りのタクシーは今日3軒の飲み代と同じ金額となりました。
老龍口を飲むと必ず乗り過ごすというジンクスは、転勤後丸3年経った今でもまだ生きていたのです。
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