名古屋に帰省すると必ず食べに行くお店があります。
緑区の「とんかつあさくら」。
素晴らしく美味しいとんかつを、驚くほど安く食べられるとあって、食べログでも全国レベルの高評価のお店です。
予約は受け付けないので、並ぶしかありません。
「今回はいつ行こうか」
「ゴールデンウィークはお休みかな」
などと新東名を走りながら家族で会話。
すると、次男が突然大声を上げます。
「6月いっぱいで閉店だって!?」
車中は大パニック。
公式ホームページに、30年の営業に幕を閉じるご主人の挨拶が掲載されていたのです。
不覚にも初めて知りました。
緑区滝ノ水の閑静な住宅地にあるとんかつ屋さんは、今は亡き義父が昔から贔屓にしていたお店です。
息子たちにとっても、子供の頃から名古屋の帰省とあさくらのとんかつはセットになった思い出。
当時はランチにふらっと行っても入れたのですが、次第に人気が出て、営業も夜のみになり、更に行列も長くなって、一回転目に入れなければ特上ロースとんかつが食べられないという時代になりました。
善は急げ、とばかりに帰省初日の今日、義母と妻、次男、三男と5人で17時開店の一時間前にお店に向かいました。
あいにくの冷たく強い雨ですが、既にお店の角を曲がって15人くらいの行列です。
「ギリギリセーフかなぁ」
と案じながら並ぶこと一時間。
辛うじて小上がりのラスト一卓に着席。
我々の後ろの女性お二人で一回転目は終了です。
一回転目に入れないと、最低でも更に1時間は待つことになり、特上ロースとんかつも売り切れるという狭き門。
入店順にオーダーを聞かれますが、私たちは入店10分後でした。
その時点で特上ロースとんかつ定食(2,400円)はラストワン。
三男が特上を注文し、残りの4人はヒレとんかつ定食(2,200円)とロースとんかつ定食(2,000円)にしました。
瓶ビールを頼んで、ようやく人心地。
テーブル毎に肉の下ごしらえをするところから始まるので、とんかつが出て来るまで、まだまだ長丁場です。
テーブルにソースなどが用意されます。
しばらくして定食の小鉢、お新香も出てきました。
単品で頼んだ豚肉のリエットもようやく登場。
つまり、私たちのテーブルの料理に着手し始めたという証。
瓶ビールはとっくに無くなっていたので、改めて生ビールを注文。
もっともこのスローな展開は織り込み済み。
すり鉢に入ったゴマが出てきます。
それを擦ってソースを入れ、準備も徐々に整っていきます。
前菜のつもりで頼んだ串カツとクリームコロッケも私たちの前のお客さんのとんかつを作り終えるまでは着手されません。
ご主人はテーブル単位でとんかつと真剣勝負。
この店が時間がかかる理由です。
クリームコロッケは自家製トマトソースで頂きます。
そして、お待ちかねのロースとんかつが出てきました。
美味しいご飯と赤出汁も。
ご飯とキャベツは、このお値段にも関わらずお代わり自由です。
ようやく整ったロースとんかつ定食。
入店から既に40分近く経っています。
いつも肉を叩く音が聞こえるのですが、決して薄くなっているわけではありません。
どういう下処理をしているのかは、とうとう謎のまま。
驚くほど薄い衣。
揚げるというよりは、コートレットのスタイルでしょうか。
肉の芯はほんのりとピンク色。
余熱で次第に色が変わっていきます。
柔らかく、ジューシーで、なにより豚肉の旨味が濃いのです。
三男が特上をひとつ分けてくれました。
もちろん特上は摺り胡麻ソースで。
もう二度と食べられないだろう、としっかり味わいながら頂きます。
しみじみと旨い。
食後のデザートまで付いてきます。
お茶とゆすのシャーベット。
お店の奥さんと義母は長い付き合いなので、挨拶を交わす仲。
義父が大好きだった店の閉店は、義母にとっても、私たち家族にとっても一つの時代の終わりを感じてとても寂しいのですが、仕方ありません。
お店を出たのは入店から1時間以上経っていましたが、お並びのお客さんは4、5人。
もう特上はもちろんロースも無いと、皆分かっているからです。
ゴールデンウィーク中にもう一回来れるでしょうか。