時刻は19時。
尾道を歩いてお腹も空いたので、体調は万全です。
駅前のデパート天満屋の裏にある自由軒が、今日の旅先のお相手。
「洋食、おでん」と謳う看板を見ただけで嬉しくなります。
吉田類的酒場。
定食、丼物などの文字からもわかるように、大衆食堂系酒場。
しかも洋食、と標榜しているところが私の琴線に触れました。
先代は、もとは洋食のコックで、1951(昭和26)年に、ここ自由軒を創業したそうです。
暖簾をくぐって中を覗くと満員のようです。
「おんな酒場放浪記」で見た、元気な女将さんが中から出てきて
「もうちょっと待ってて」
と言います。
もうじき空くのでしょう。
ついていました。
もっとも、他に店の当てもありませんし、このために新幹線で来たのですから意地でも待ったとは思いますが。
5分ちょっとで店内へ。
20人ほどが座れるコの字カウンターはびっしり満員。
しかも、意外なことに若い方や、女性客も多く、かなり幅広い方に愛されている大衆酒場だとわかります。
入口脇には食堂の証である、小鉢の入った冷蔵庫。
テンションが上がります。
しかし、今日は食べようと思って決めて来たものがたくさんあるので、浮気は出来ない状況です。
プレートのあるメニューは定番の食堂系。
元々は食堂としてこのメニューからスタートし、次第に短冊が増えたのだろうと、勝手に推測します。
メニューが多すぎて、自分が決めて来たもの以外のチョイスが定まりません。
「落ち着け」
と言い聞かせ、まずは生ビールとおでん、そしてキモテキを頼みます。
ここまではこの店を訪れた倉本康子さんと同じ。
泰然自若を装い、常連ぽくスタートしているように装いますが、内心はかなり動揺しています。
おでんは大根と玉子。
ここはおでんをお皿に入れて、汁を切ってから味噌ダレをかけます。
淡口のおでんは出汁がよく滲みています。
汁を切ることで、味噌が薄まらないということなのでしょう。
甘辛い味噌ダレが良く合います。
厨房は大鍋を豪快に振って炒め物を作るご主人と息子さん(?)の姿が見えます。
キモテキが出て来ました。
その名の通りレバーのステーキ。
一口大の大きさに切ったレバーをケチャップ味でソテーしたもの。
少し和の風味がするのは、もしかしたら、ケチャップに醤油が混じっているかもしれません。
実に食べやすい味。
私はレバーが好きですから気になりませんが、そうでない人にも癖の無い味です。
疲れ気味の私には、付け合せの生野菜とセットで栄養補給になります。
私の座ったテーブルの後ろにはたくさんの短冊。
ようやく私が頼みたいメニューが見つかりました。
豚ねぎです。
ネギを豚バラ肉で巻いて揚げたもの。
シンプルですが、実に旨いアテ。
そのままでも肉の味がして美味しいのですが、ソースもかけてみました。
キモテキのケチャップも合います。
先ほどのキモテキもそうですが、これにライスと味噌汁を付ければ、立派な定食です。
ここでハイボールに切り替え。
オムライスが出て来ました。
そもそもが大好物の上に、常連さんが皆頼むとあっては、無視できないメニューです。
美しい玉子の焼き色。
巨大なオムライスは、みっしりとケチャップライスが詰まっています。
オムライスが合い過ぎて、ハイボールをお代わり。
ハイペースです。
注文はカウンター内の正面でおでんの番をする美人のお姉さんにお願いするのですが、彼女も忙しいので声をかけるタイミングが難しいのです。
お姉さんが奥の厨房に向かって、注文を叫ぶと、名物女将が更に大きな声で復唱します。
これが、この店の明るい雰囲気を創り出しているのです。
メニューによっては店員さんの間では符牒や略語になっていて、「ワンカツ 一丁!」というのは「一口カツ」のことでした。
思わず吹き出しそうになりました。
カキフライ。
広島に来て、頼まない法はありません。
これもかなりのお客さんが頼んでいたので、私ものっかりました。
タルタルソースにつけて。
鮮度の良いプリプリの牡蠣。
今食べておくべき一品です。
ロールキャベツを頼みました。
これも人気の名物です。
おでん鍋で煮て、やはり味噌ダレをかけるのですが、私が頼んだ後に他のお客さんが生姜醤油をかけてもらっているのを見て愕然としました。
姫路おでん風にも食べられるのです。
ロールキャベツはそれで食べたかったと残念無念。
カキレモン、というメニューがずっと気になっていました。
ちょうど私の隣のお客さんが注文したものをみて、衝撃を受けました。
生カキのことなのです。
私は慌てて注文しました。
お酒は芋焼酎のロックに切り替え。
そろそろ追い込みです。
来ました!
カキレモン。
ポン酢がかかっていますが、更にレモンを絞ります。
これがカキレモンの由縁なのでしょう。
フライも生も食べられて、幸せいっぱいです。
もちろんエキスの滲み出たポン酢は飲み干します。
もう何もお腹に入りません。
さすが、名店。
近くにあったら間違いなく通う、美味しくて、安くて、人情溢れる温かいお店でした。
福山駅に戻ってきました。
帰りはさくらを取りました。指定席は二列なのでグリーン並のゆったりさ。
駅ナカのコンビニで買った缶酎ハイで仕上げ。
このボトル置きはとても便利です。
あっという間に新大阪です。
急に思い立って出かけた福山・尾道でしたが、密度の濃い、思い出深い旅となりました。
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