今日はここに来なければ、と思っていました。
再開発のため、今日で35年の歴史に幕を閉じる
加賀屋 東京駅前店。
東京の大衆酒場好きのサラリーマンなら誰でも知っている加賀屋チェーン。
山手線の主な駅に支店のある大衆酒場です。
正確にはチェーンでもフランチャイズでもなく、緩やかな暖簾分けのような共栄会という仕組みで繋がっています。
江戸の蕎麦屋の仕組みに似ているかもしれません。
2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、あちこちで槌音が響く東京ですが、ここ八重洲南口も再開発の対象です。
35年前といえば、私が社会人となった1983年。
私のサラリーマン人生と同じ歴史を持つ昭和酒場です。
月曜日の夜に降った雪が、まだ残っています。
高層ビルの谷間は、日が当たらず雪が残るのです。
暖簾を潜って店内へ。
あいにく満席。
そこそこオオバコなので、待つことは滅多に無い店ですが、やはり最終日だからでしょうか。
入り口脇でしばし待つことにしました。
閉店を知らせる悲しい貼り紙。
再開発の是非を改めて考えさせられます。
15分ほど待って、ようやく案内されました。
この店は大衆酒場を標榜する加賀屋共栄会の中では一線を画す独自路線。
メニューの品揃えや価格帯から、その差が窺えます。
まずは
ホッピーから。
黒はもう無いとの事で、
白を頼みます。
お通しが出てきました。
出汁豆腐と生海苔酢。
こんなところも東京駅前店ならでは。
最終日と知ってか知らずか、満席の店内。
この賑わいも今宵限り。
私は、ひとりジョッキを掲げ、35年間地元のサラリーマンや出張族を迎え入れてきた昭和大衆酒場の労をねぎらい、乾杯します。
とりあえず名物の
もつ煮込み豆腐から。
七味を振っていただきます。
味噌仕立てですが、やや薄めの味。
なんとなく上品に感じます。
お刺身は別メニュー。
こんなラインナップも他の加賀屋とは異なります。
カンパチ刺を頼みました。
活きのいいカンパチ。
コリっとした食感も美味。
たまご好きの私は、
ふわふわ出し巻玉子を頼もうと思ったのですが、売り切れと聞きショック。
串焼を頼むことにします。
一種類二本ずつというルールですが、6本のおまかせがあるというので、それにします。
塩で
手羽先、
豚バラ、
ぼんじり、
焼鳥。
タレで
シロと
カシラ。
周囲は喧騒に包まれていますが、私はひとり、しんみり、ゆっくり、この店と向き合ってサシ飲み。
また昭和の名店の灯りが一つ消えていきます。
1時間ちょっとのノスタルジックなひとり酒を終えて、表に出ると、既に再開発が終わった丸の内の高層ビル群が見えます。
1964年の東京オリンピックで発展したこの街は、皮肉な事に2020年の東京オリンピックの新たなレガシーと引き換えに、かつてのレガシーを大きな代償として失う気がするのは、昭和生まれの私のノスタルジーでしょうか。
この店の跡地に建つ60階建てのビルには、金太郎飴のような味気ない店しか入らないはずです。