と支社のB級グルメ仲間のK局長から情報がもたらされたは、もう1、2ヶ月前の話。
「福島の中華料理屋のローメンが、とにかく凄いんです」
「ローメンて、あの元町の丸玉食堂のみたいなやつ?」
「いやいや、あんなんとちゃうんです。なんか、こう、もう、むちゃくちゃなんですわ」
といって画像を見せてくれました。
そこには、得体のしれないドロッとした塊の入った丼が写っていました。
一度業務の都合で流れた日程を再調整し、決行の夜を迎えました。
「今日はお昼食べんといてくださいよ」
という彼の指示を忠実に守ってランチ抜きの私の馬体の仕上がりは順調です。
タクシーに乗って、福島の大淀へ。
かつてABCがあった近くだそうですが、私はほたるまちにある今のABCしか知らないのでその話はどうもピンときません。
再開発された高層マンションの向かいに昔ながらの下町中華がありました。
中華料理末広亭。
店に入ると、大きな犬とご高齢の男性と女性が椅子に座って手持ち無沙汰。
店内は色の落ちた古いデコラのテーブルと、一部破れたビニール張りのパイプ椅子。
猛烈に好きなタイプのお店です。
「なんかエアコンは新しくなってる気がしますわ。昔は夏にローメン食べてたら、暑くて死にそうやったんです」
とK局長。
「あれ、ダイキンだよ。新しいし絶対効くよ」
何やらどなたかの色紙が。
額はすっかり茶色くなっています。
味わいのあるインテリア。
ようやく興奮が収まってきました。
メニューを確認します。
それなりに種類があるようです。
「一品類も魅力的だね」
「そうなんですけど、あんなん頼んだら、ローメン食べられへんのですわ」
問題のロー麺(ローメン)をはじめとする麺類。
「一品を頼んでローメンを分けるという手もあるよね」
と私。
「それもありですけど、やっぱり初回は一人で一人前食べるのが修行とちゃいますか」
とK局長。
それには私も同意します。
「それなら、まずは餃子とビールから行こうよ」
「ライスはどうしますか?」
「焼きめしにしようよ。上焼きめしって50円高いけど、どう違うのかな」
お母さんに餃子とビールをオーダーします。
上焼きめしはエビと玉子が入っているというので、それもオーダー。
「かなり凄いですよ」
と散々K局長の脅かされた私は、やや緊張気味に乾杯です。
程なく餃子が出てきました。
300円とは思えないボリュームです。
卓上の調味料からラー油をピックアップ。
宴の始まりです。
鉄鍋餃子のような四角い餃子。
しっかりと餡が詰まっています。
かなり肉が多いタイプ。
餃子と言うにはあまりにもシンプル。
棒状の肉を皮で巻いただけ。
この皮から肉がすり抜けて小皿に転落しました。
激しくラー油醤油が飛び散り、私のワイシャツは返り血を浴びました。
最悪です。
いよいよロー麺が出てきました。
焼豚のせのオプション。
スープが盛り上がっています。
盛り上がっている時点で、もはやスープとは呼べないかもしれません。
よくこんな盛り付けができるものです。
大将の職人芸。
上から見ると、こんな状態。
圧倒的なボリュームj感。
そして強烈なジャンク臭。
K局長の脅しは、嘘ではありませんでした。
早速食べることにしましょう。
まず、麺を手繰ります。
重っ!
汁の粘度も半端ありません。
ほぼ固形物。
粘りのあるスープという点では、昔、築地に本社があった頃よく通った玄海という中華料理店の大呂麺(ターローメン) を思い出しました。
それはスープが塩味で野菜や肉、カニカマなどが入って彩りがありましたが、これはあくまでも茶色です。
レタス、ネギ、玉子、豚肉が入っているようです。
しかしその粘度は、この店のロー麺には遠く及びません。
余りの重さに腱鞘炎になりそうです。
トッピングの焼豚も厚切りで脂身も多く、どこまでもガテン系。
大きく麺を底から掬い上げ、全体を撹拌します。
このまま食べると、ワイシャツの被害が更に拡散しそうだからです。
そこへ上焼きめしも到着。
K局長の言った通り、凄いことになってきました。
上焼きめしにロー麺の汁をオン・ザ・ライスします。
ラーメンも。
そして焼豚も。
オン・ザ・ライス三連発。
食べ進むうちに汁の粘度が落ちてきたような気がします。
直箸に付いた自分の唾液が、片栗粉の成分を分解してサラサラにする作用があると、後日知りました。
しかし、ここまでです。
なんとか麺は食べきりましたが、汁は飲み干せず、焼きめしも残す体たらく。
二人とも、肩で息をして、噴き出る汗を拭いながら猛省します。
お母さんがにこやかに近寄って来ました。
「お母さん、ごめんね、残しちゃって」
と私。
「多いなぁと思ったんですよ」
と笑います。
この辺りの昔の様子を知るK局長は、お母さんと昔話。
「ABCやプラザホテルがあった時は活気があったねぇ。航空会社の人が良く食べに来て、おみやげくれたりね」
と懐かしみます。
聞けば、そのホテルは海外の航空会社のクルーの定宿となっていて、アメリカンやノースウェスト、エールフランスなどのクルーがよく食べに来たそうです。
「ロー麺を、ですか?」
「ええ。フォアグラとかお土産でくれたりね。ファーストクラスのせてあげるからパリにおいで、とか」
「すごいね~」
「でも、今は人もいなくなって、昔の大淀村に戻ったね、って近所の人と話してるんですよ。ABCの人も、古い人はこっちの方が良かったみたいですね。今でも偉い方が食べに来ますよ」
元気な女性に失礼を承知でお年を尋ねましたが
「おばあちゃんですよ」
とはぐらかされました。
厨房を取り仕切る男性の方が若そうだったので、その関係がわからず、これまた失礼を承知で
「ご夫婦ですか?」
と質問。
「いえ、弟なんです」
大淀村で35年。
姉、弟が下町中華を切り盛りし、小さな家の二階で暮らしています。
なんとも昭和な、いい話。
メガ盛りでオカンが元気、という意味で豊崎の喫茶Yを思い出しました。
そういえば、あそこにも海外の航空会社のクルーが大勢食べに来ていました。
「家はね、にんにくは青森やし、ニラは高知やし、材料は全部国産なんですよ」
そんな当たり前のこだわりで続けてきた、小さな町の中華料理屋。
お会計を済ませると、小柄なお母さんは店先まで出てきて、私たちに何度もお礼を言って見送ってくれました。
ロー麺との格闘はハードなバトルでしたが、お店は実にほのぼのとアットホーム。
ワイシャツに返り血を浴びて地下鉄にも乗れない私は、福島に住むK局長と別れて、満腹の胃の消化を促進するために南森町まで歩いて帰ることにしました。
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末広亭 (中華料理 / 福島駅、新福島駅、西梅田駅)
夜総合点★★★☆☆ 3.3
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