私が転勤以来通っている美容院、東天満のhooploopのスタイリストだったO君。
独り暮らしのお母さんの面倒を見るために、新宮の実家に帰ることになり、1年前に大阪を離れて、独立して新宮で自分の美容院を開業することになりました。
新宮と大阪を行ったり来たりしながら開業準備を進める彼に髪を切ってもらっている時に、準備の大変さについてよく話を聞きました。
昨年7月に、私の行きつけの南扇町の居酒屋旬味ひげでサシ飲み送別会をやって以来の再会です。
旬味ひげは、マスターの奥さんが彼のお客さんでもあるという共通項もあったので、そこで飲むことにしたのでした。
あれから1年以上。
フェイスブックでつながっているので、今回のツーリングを決めた時に、彼に連絡を取り今晩の約束をしました。
美容院の閉店時間に合わせて、ホテルからぶらぶらと歩いて15分ほど。
昔は喫茶店だったという、彼の美容院が見えて来ました。
ずいぶんと洒落た、そして可愛い造りです。
店名はsam hair。
O君の名前の一部を取ったネーミング。
地元の工務店との調整が大変だった、とO君は言いますが、彼の思いがこもった、小さいけれども、大きな可能性を秘めたお店。
「新宮には無いシャンプー台なんです」
と自慢するO君。
大阪から持参した開店祝いの手土産を渡し、飲みに行くことにしました。
撮影・掲載許可済み |
「新宮はなかなか大阪みたいにいい店がなくて」
といいながら、彼が連れて来てくれたのは魚が美味しいと地元で人気の居酒屋きのした。
土地の旨い店は、土地の人に聞くのが一番です。
私一人なら、見つけられなかったお店。
一階はカウンターと小上がり、吹き抜けの二階にはテーブル席。
満員御礼、地元の皆さんで大賑わいです。
私たちはカウンター席に座りました。
まずは再会を祝して乾杯です。
突出しは肉じゃが。
ほっこりと、旨い。
この店は間違いない、と予感させる味。
カウンターの目の前にぶら下がる膨大な量のメニュー短冊に圧倒されます。
「クジラとイルカが食べたいけど、後は君のオススメを頼んでよ」
とO君にお願いします。
流れ子煮、と彼が頼んだのはトコブシでした。
地方によって呼び名が違うのも、また旅先の楽しみ。
かなりしっかりと味が滲みていますが、辛いわけではありません。
メニューに書かれている通り、確かに柔らか。
ミンククジラの刺身。
竜田揚げを頼んだつもりが、お店が間違えたようです。
でも、これはこれで好きなので問題なし。
子供の頃、大好きでよく食べたクジラの刺身。
安くて美味しかったのに、と思うと残念です。
にんにく、生姜、ネギを脂身とサンドイッチして。
馬刺しの赤身とたてがみを一緒に食べる食べ方に似せてみました。
抜群に旨い。
「捕鯨の仕事してる友達がいるんですけど、制限が多くて収入がすごく減ったって嘆いてました」
とO君。
世界的に問題視されている日本の捕鯨ですが、私はどうも議論が噛み合っていないと感じます。
生ビールをお代わり。
今日は温泉に三湯入りました。
気温も高かったせいもあり、身体が水分を求めています。
ピンピン貝。
どんなものが出てくるのかと思ったらマガキ貝です。
三重県から勝浦方面での呼び名だそうです。
和歌山県の太平洋岸は、基本的に岩場なので貝の種類が豊富です。
一昨年四国を一周した時に、四万十の居酒屋でとてもユニークな貝をいっぱい食べたことを思い出しました。
イルカの造り。
イルカと聞いて
「え、食べるの?」
と驚く人も多いかもしれませんが、このエリアでは極めて普通の食材。
これで650円。
クジラの小型な生物がイルカ。
当然ながら哺乳類ですから、動物の肉の味がします。
とはいえ、海で暮らしているからか、その味は同じ赤身の牛よりははるかに癖がありません。
クジラよりは身体が小さい分、味は濃縮された感じで、実に美味。
これは背脂がついている部分なので、脂身と一緒に、やはりにんにく、生姜、ネギを絡めていただきます。
「僕が子供の頃は、しょっちゅう食べてましたね。すき焼きとかいったらイルカでしたよ。牛肉より安くて、味が似てるから」とO君。
食は文化であり、その文化が形成された歴史を知らずして、軽々に批判すべきではないと私は考えます。
お酒はプレーン酎ハイに切り替えます。
くじら内臓 うでもの酢みそ。
クジラの腸をはじめ、いろんな部位を塩茹でにしたものを酢みそでいただきます。
「うでもの」とは、「茹でもの」の意だと思われます。
丸いものは腸ですが、後はお店のホール係の女性に聞いても釈然としませんでした。
あらゆるモツが好きな私は、もちろんこれも大変口に合いました。
やや塩が利いたモツと酢みその相性は抜群。
ボリューム満点でたった650円。
プレーン酎ハイはお代わり。
一方O君はさっきから麦焼酎の緑茶割り。
「こっちではみんな麦の緑茶割り飲みますね」
「甲類じゃなくて、麦なんだ。麦の味と緑茶が混ざるのが好きなのかな」
「どうなんでしょうね。でもみんなこれなんですよ」
こんなところにも食文化。
秋刀魚丸干し。
添えられているのは、小さな芋のようなものと、じゃこ。
「旬なのに丸干しにしちゃうの?」
と私。
「熊野の名物なんですよ」
せっかく旬の秋刀魚が大量に水揚げされるはずなのに、と思いながら一口齧ってみました。
塩焼とは全く異なる食味、食感。
いわしの丸干しのもっと食べ応えのある感じ。
干すことによって、アミノ酸などの旨味成分が増加するのでしょう。
しかも骨まで食べられるので、カルシウムも補給できます。
日持ちもしますから、先人の知恵は偉大です。
酒が進むつまみが目の前にいっぱい。
私は焼酎に切り替えます。
迷った末に薩摩宝山のロックにしました。
「この店は違いますけど、熊野は昔から飲食店は高飛車なんです。黙ってても熊野詣に人が押し寄せてたから」
「へぇ、そうなんだね」
「高飛車というか、人見知りもあると思いますけどね。あんまり愛想は良くないです」
それでも、私にはこの店の奥さんやホール係の女性はとても好印象でした。
「そろそろ締めようか。O君の食べたいもの頼んでよ」
それを受けた彼が頼んだのはめはり寿司。
これも熊野の名物です。
私も前回の熊野詣で食べたことがありますが、当店のは特大。
南紀・熊野地方の山仕事や農作業で食べる弁当として始まったと伝えられ、現在でも当地の家庭料理としてポピュラーなもの。
寿司とは言うものの、酢飯ではなく白米で握った大きなおにぎりを高菜で包みこんで作ります。
この店ではご飯に菜っ葉が混ぜ込んであります。
「家によって作り方や味が違うんです」
というO君の説明に納得。
きっと我が家の味があるのでしょう。
めはり寿司の呼び名は、「目を見張るほどの大きさだから」「目を見張るように口を開けないと食べられないから」「目を見張るほどおいしいから」に由来するという説、あるいは、「おにぎりに目張りするよう完全に包み込むから」に由来するという説もあります。
実に美味しいですが、食べ過ぎました。
O君のお店は、開店当初は色々と苦労があったものの、今では軌道に乗り、順調だそうです。
「ほとんど口コミなんですよ、田舎だから」
と笑う彼。
新宮市内の一等商業地に運良く物件があったことも、成功の一助のようです。
一スタイリストして髪を切っていた時と、お店を経営する、という事業者の立場になってからでは大きく人生が変化したと言います。
私から見ても、実に逞しく、立派に成長したと感じました。
息子といってもおかしくない年齢差のO君ですが、故郷の新宮でしっかりと根を張って、美容院を経営していました。
4年前に大阪に転勤して、すぐに通い始めた美容院で知り合った、ある意味私の最初の大阪の友人でもあります。
そんな、彼のビジネスが今後ますます上手くいくことを願い、固い握手をして別れました。
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