しかし、今週の日曜日に、野田地獄谷の居酒屋酒縁 ゆるりのマスターが、「研修旅行」と称して鳥取で旨そうなものをいっぱい食べているのをフェイスブックで知り、居ても立ってもいられなくなりました。
月曜日に地獄谷に出向いてマスターから詳細な情報を収集し、大急ぎで旅行の計画を立てました。
宿は全くネットでは見つからず、電話でなんとか駅前旅館を確保。
ランチで訪れたい味暦あんべはセコガニ丼を食べさせてくれるお店。
シーズンイン直後の三連休とあって、予約は既に一杯。
それはそうでしょう、そんなに甘くはありません。
でも、電話で応対してくれた店主は
「予約は毎時00分なので、その時に並んでいれば、早めに食べ終わったお客さんが20分か30分で出るから、一人か二人なら入れるかもしれません」と言います。
その言葉を信じて、11時の開店に間に合うように出かけることにしました。
朝7時過ぎに大阪を出発。
中国道から鳥取道へ。
朝はちょっと冷えますが、快適なツーリング。
10時半過ぎにお店に着きました。
誰もいません。
どうやら一番を確保したようです。
飲食店が並ぶ古い飲み屋街。
店の前にはトロ箱が山積みです。
この中にセコガニが山ほど入っているのでしょう。
暖簾が出ています。
中に入って順番待ちをしていることを告げると、表で待つように言われます。
記名式ではありません。
とりあえずバイクを駐車して、それからお店の前でスタンバイ。
10分ほど前から続々と人が集まり、不自然な行列が出来ます。
予約している人と、していない人が混じっているのです。
私は既にお店には顔を売っていますし、玄関のすぐ脇に立って「俺がウェイティングの一番だからね」と、不特定多数のライバルたちに暗黙のアピール。
11時と共に、とても感じのいいお姉さんが店から出てきて看板をかけ、予約の方の名前を呼び上げて、中に招じ入れます。
私はセコガニと呼んでいましたが、鳥取では親がにと呼ぶようです。
表には、予約なしのウェイティングメンバーが4組6名残されました。
若いアルバイトのお兄ちゃんたちが次から次へとトロ箱を抱えて、飲食店街の別の場所へと走っていきます。
お米の入ったお釜を抱えたお兄ちゃんは向かいのビルへ。
どうやら近所のいろんな場所を借りて、店外で仕込みを行っているようです。
更に3人連れが来ましたが、入れるかどうかわからないと聞いて、持ち帰りを注文しました。
そういう手もあるのです。
間もなく開店30分、というところで、早く食べ終わったお客さんが出てきました。
ウェイティングのメンバーは色めき立ちます。
私は内心ほくそ笑みました。
いえ、明らかに顔がにやけたかもしれません。
私は当確なのです。
カウンターの一番奥の席に案内されました。
私以降を含めて4人が一気に入店です。
入店前に親がに丼の普通盛を頼みましたが、別のお客さんが頼んだ特盛が気になって仕方ありません。
着席後にお姉さんを捕まえて
「特盛に変えられますか?ご飯は普通盛りで良いんです。あ、お金は払いますから」
とかなり前のめりな、自分でも何を言っているのかわからないオーダー変更を申し入れました。
お姉さんは、すかさず大将に「特盛のご飯普通、いけますか~!?」と大声で確認。
無事了解が出ました。
ご飯が多いとお腹いっぱいになって夜に差し支えるのでやめたのですが、親がにはたくさん食べたいのです。
表で発注済にもかかわらず、着席後の突然のリクエストは、無事通りました。
店内は落ち着いた和風の小料理屋風情なのですが、騒然とした雰囲気。
高校生、大学生と思しきアルバイトの若いお兄ちゃん、お姉ちゃんが所狭しと働いているのです。
店内にはチーフ格の、先ほどの可愛いお姉さんの他に、7、8人が分業体制でシステマティックに働いていますが、大将が彼らに細かい指示を飛ばしています。
その声にいちいち店員が「はい!」「わかりました!」と返事するので、まるでチェーン居酒屋にいるような雰囲気です。
到着した親がに丼特盛(ご飯普通)の蓋を開けてご対面。
ゆるりのマスターの写真で見て知っていはいましたが、思わず息を飲む迫力。
親がにを四杯は使っていそうです。
親がに汁にも二匹入っています。
「かに汁はお代わりもどうぞ」
という気前良さ。
巨大な鍋で大量に作っています。
足の身。
親がには足が細いので、身を出すのが大変ですが、こうやってきれいに出てくること自体が贅沢なことです。
値段の中には別の建物の仕込み場でせっせと身をほぐす若者たちの人件費が入っていると思えば、ある意味納得。
親がにの特徴である、内子(卵巣)と外子(受精卵)。
内子の色が鮮やかです。
そしてミソ。
こんなに食べられるのです。
ミソと和えた内子もまた珍味。
親がにの足の根元にはミソが詰まっていますから、しっかりと啜り出します。
猫舌の私は、熱くてヤケドしそうになりました。
濃厚なミソの風味たっぷりのかに汁は、汁マニアの私も大興奮。
順々に食べ進んでいきます。
淡白ながらも最もカニらしい味わいの足の身。
トロトロの食感が楽しい内子は、甘みを感じます。
甘みの中にわずかな苦味を感じるミソは、足の身と合わせて食べるとその旨さが一段と引き立ちます。
プチプチした食感の外子は、いかにも親がにの特徴的な部位。
四種類混ぜわせても食べてみます。
親がにらしい様々な味わいが渾然一体となって、口の中は幸せで一杯です。
かなり食べたようで、まだ半分。
ご飯は普通盛りなのに、結構な量です。
やはり、親がにが特盛だからでしょうか。
ライスコントロールに苦労する、嬉しい悲鳴。
後三分の一位でしょうか。
親がに丼が出てきたのが11時35分ですから、私に与えられた時間は12時までの25分。
大将の指示と若者たちの掛け声に圧倒されて気持ちが焦りますが、時計を見ると11時42分。
まだ7分しか経っていません。
「大丈夫。落ち着け、俺」
ここでかに汁をお代わりします。
体制の立て直しです。
でもこれ以上ご飯は入りませんから、この選択肢で正しかったことは間違いありません。
濃厚なミソや内子だけを食べ進みます。
日本酒が飲みたくなる展開。
カニの味で口の中がくどくなるという、なんとも贅沢な事態。
お口直しに飲むかに汁もまた、すごいミソの味。
私の体内は、今血液までカニで満たされているはずです。
食べ終わりました。
11時51分。
大満足。
生きていてよかった、と心の底から思えるランチでした。
お会計は、一番乗りの私に親切にアドバイスしてくれたチーフ格の可愛いお姉さん。
「今日はお待たせして申し訳ありませんでした!」
「予約無しで大阪から来たけど、食べられて良かったよ。ごちそうさま」
「大阪ですか。私今度大阪に就職するんです。美味しいお店教えて下さい!」
実に客あしらいの上手な女の子です。
きっと就職先でも可愛がられることでしょう。
店を出ると、既に12時の予約と、ウェイティングのお客さんが10人以上、判然としない列を作って待っていました。
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味暦あんべ (懐石・会席料理 / 鳥取駅)
夜総合点★★★☆☆ 3.5
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